コンパス
ぼろぼろの洞窟。崩れた隙間から木漏れ日が時折差す洞窟を一人で進む。
一人なのは誰の事も信じられないから。
右に行くか左に行くか真っすぐ進むか、決めるときに他人がいると面倒だ。
そうしてずいぶん歩いたけれど、洞窟の出口はまだ見えない。
全部自分で決めた道だ。後悔はしていない。だが、出口が見つけられないことが辛い。
そんな時、木漏れ日から手が差し伸べられた。
他人はどの道に進むか決めるときにいると面倒だが、その人にその不安はなかった。
手が差し伸べられた方向に進むと、洞窟の出口が見えた。
ようやく出られた洞窟。そこに差し伸べられた手の主はいなかった。
どこをどう探してもいない。洞窟に入っていたこと、その間のことを知られてしまったから?違う。それを知った周りの人が手の主を苦しめているようだ。
だから、さよならだけが私たちの愛だった。
洞窟から抜け出させてくれてありがとう。
それだけを伝えて、私は一人歩き出す。今度は洞窟の外を。
もしかしたらいつかまた洞窟に入るかもしれない。
そしたらまた助けてくれるかな?
そうなるのなら、また洞窟に入るのも悪くないのかもしれない。なんて思ってみたり。
私の愛は本物だった?洞窟での恋愛なんて、カウントされない。
ほぼ初恋。本物だったと言い切れる。
ありがとう、それだけを伝えて、私は一歩目を歩きだす。