③
映画の感想を語りながらコーヒーが底をついたころ、ようやく店を出ようかという空気感になったころ
「そろそろ出ようか。」
と彼が切り出す。
ここまでの二人の時間を名残惜しみながら、うんと返事をし店を出る。
店を出ると、湿気と生ぬるい空気が全身を包み、夏を感じて心が上ずる。
彼もそう感じているだろうかと気になって見上げると目があって
「ん?」
と彼に聞かれ、何でもないと返事してしまう。
でもやっぱりこの気象について話したくて、夏の夜って感じの空気だね。と声をかける。
「そうだね。このまま時が止まってもいいくらい好きだな。」
と言われ、夏に言ったのか私に言ったのか頭の中が混乱しはじめる。
ふと彼が
「花火する?」
と、この夏っぽい夜をまだ楽しみたいという様子で提案してきた。
私にとっても願ったり叶ったりだった。さっきの言葉は夏に言ったの?私に言ったの?と、夏にジェラシーを感じながら彼の提案を上機嫌でうん。と返事した。